読んだもの

ある一人の友人を想定読者に書いていくブログ∧独学ノート。

『食魔 谷崎潤一郎』(2023/10/19)

谷崎潤一郎の異常なまでに強い食へのこだわりを、彼の書いた作品と人生から読み解いた新書。なんとなく手にとったが美味しく読めた。自分は全く谷崎潤一郎を読んだことがないが、短編くらい読んでも面白いかなという気になった。

もう返してしまったので、覚えている点からいくつか。

谷崎作品の悪女はものをよく食べる。『痴人の愛』のナオミだっけ?が特にそうで、主人がマゾヒスティックに貢いだ洋食をたらふく食べて発育し、西洋人めいた体型で公然と主人の家で愛人を囲う。望まれて生まれたサディスト。

谷崎は東京生まれ東京育ち。中学卒業前あたりで親が事業を失敗して、ごちそうを毎日食べる生活から粗食の生活になる。書生としてお屋敷で使用人同然の生活をすることになり、ごちそうを食べている主人への嫉妬から食い意地を張るようになった。また、中学あたりで中華料理屋のせがれと仲良くなり、弁当を交換して食べたりするようになる。

谷崎は戦中熱海に疎開する。太平洋戦争末期でも面白いほど美食をしていて、ビフテキとか毎週食べていたんじゃないか。東京に用があったときも、ホテルで洋食パーティーをしたりしていた。

こだわり抜いたものをガツガツ胃袋に放り込むのが谷崎の美食である。意外なことに、現在美食と聞いて思い浮かべるような、テーブルマナーに支配された行儀の良い食卓ではない。乱杭歯が茶碗に当たる音がうるさくて、会食していた華族に苦言を呈されるほどだったらしい。

谷崎の死因は高血圧によるものだが、それは偏食貪食が祟ったためであるのは言うまでもない。死ぬ前もビフテキ食べてたし。

著者は東大文で博士をとった方。振り袖がものすごく似合っていらっしゃる。

『トリコ』という漫画がある。少年ジャンプを一時期引っ張るほどの出力を備えたグルメバトル漫画の金字塔であり、登場人物は全員食欲を行動原理としている。吹っ切れていてとても良い。ゼブラが出てくる直前くらいまで読んだので、続きを読みたいところだ。

松笠揚げが食べたい。スーパーで丸のままの魚が安く売っているが、実家に出刃包丁がないのでさばけない。じいちゃんに相談しようか。